Origine Elements ~元素~
兵庫県三木市【鉋鍛冶】
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~鉋鍛冶~
鉋の刃に命を吹き込む焼入れの火
豊臣秀吉によって鍛冶職人が集まったことをルーツに、『金物の町』を標榜する兵庫県三木市。
鋸や鎌からドリルの刃まで、種類豊富な金物が作られるこの町の一角に構えるのが『千代鶴貞秀工房』。20世紀初頭に米沢藩の上杉家御用刀鍛冶の家に生まれた、加藤廣(ひろし)氏によって創業。
現在は鉋刃と竿づくりや生花に使われる小刀づくりに取り組んでいる。
使い込まれた道具が並ぶ工房の中で、鉋刃づくりの仕上げに使う油を熱していたのは千代鶴直秀さん。
「以前からものづくりが好きだった」という直秀さん。
偶然その存在を知った工房の門を叩き研鑽を積んだことで、現在は伝統工芸士に認定されている。
階段を一段づつ登るかのように、幾重にも渡る行程を経て作られる鉋刃。
その中でも特に重要なのが終盤に行われる「焼入れ」。
地金(じがね)と鋼を接合した素材を刃の形に整えた後で、金属の硬質化や腐食防止などを目的に行うものだ。
松炭が静かに燃える窯に、泥を塗った鉋刃を入れる。
使い込んだ座布団の上に身を置き、火の温度や強さを操るために鞴(ふいご)と呼ばれる窯の中に空気を送る道具を踏む。空気に触れた火は舞い踊るかのように力強さを増し、焼入れに必要となる温度に向かって赤から青交じりへと自らの色を変化させる。
さっきまで静かに輝いていた鉋刃は、熱を帯びて赤鬼のような色に染まり、窯から取り出した刃を手早く水桶に入れると、ジューっという大きな音と共に辺りは湯気に包まれる。ゴボゴボと奏でられる水泡の音が小さくなるに連れて、鉋刃は完成に近づく。確かな切れ味が使い手に届くのはもうすぐだ。
「作品はこうした道具がないと生み出せない。この仕事はものづくりの根幹だと思う」
かつて、彫刻を学んだ直秀さんはこう語る。
この刃を生み出す道具も手作り。火から命を授かったもの。
ものづくりの根幹を支えることとは、火が持つエネルギーを循環させることかもしれない。
完成した鉋刃には必ず刻印を打ち付ける。
それは品質の高さと火と向き合うことで自分の命を吹き込んだ証。
そして千代鶴工房が絶やさずに燃やしてきた、道具づくりへの情熱の証でもある。
職人技の源を生み出す火に感謝。
この火によって切れ味は後世へと受け継がれていく。
※千代鶴工房では、鍛冶屋体験を受け付けています。(事前予約制)
詳しい情報は、お店のウェブサイトをご覧ください。
◯千代鶴貞秀工房