Origine Elements ~元素~
和歌山県日高川町【備長炭】
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~備長炭~
名高き炭を守り焼く炎の輝き
彩り豊かな緑が包む山間を、日高川が流れる和歌山県日高川町。
紀伊国田辺の商人・備中屋長左衛門が、紀州の山に自生する『ウバメガシ』の木で作った炭はいつしか「備長炭」と呼ばれ、現代でも最高級の地位を保っている。
「斜面が削れている場所の右下、薄い緑色の木の隣に生えているのがウバメガシ。炭にするにはこれ以上の木はないと思ってます」
その一方、輸入木材を原料として使ったり、持ち味の強い火力や持続力に乏しい備長炭もあるとのこと。
そこで和歌山県産の天然木が原材料の炭に「紀州備長炭」というブランドを付して守るのが紀州備長炭保存会。
「今、保存会に加盟している職人は30人ほど。製炭師自体が町全体で50人もいないんです。」
若き製炭師・湯上さんは、師匠でもある父親と共に備長炭の文化を受け継ぐ一人。
こうした地場産業を後世に継承するために、町が設立した日高川町製炭研修所。
2台の焼き釜で未来の担い手を育むこの施設で、湯上さんも炭と向き合う日々を過ごしている。
急斜面の山から切り出した無数のウバメガシ。見ればほぼ全ての木に切り込みが入っている。
「木を真っ直ぐにして隙間なく釜に入れることで、焼く本数も増やせる」という知恵だ。
「精錬」と呼ばれる炭作りの後は、釜の中は強烈な赤褐色に染まる。
小さな入口の先に広がる釜の中に木を立てかけたら点火。
木の水分を抜きつつ蒸し焼きにしたら、入口の穴を塞ぐ壁に小さな空気抗を作り炭化させる。
1週間近くかけて炭化を終えた木を更に燃焼させることで、樹液成分が全て抜け出た引き締まった炭になる。
「釜には1回で6トンの原木が入り、1トンの木は120キロくらいの炭になります」という量の炭の釜出しには約11時間を要するという。
肌を刺す熱気を浴びつつ金属製の道具で炭を取り出していると、キンキンと甲高く澄み切った音が響き渡る。
取り出した炭は山積みにされ、仕上げに灰をかけて消火する。うっすら白く染まった炭は白炭と呼ばれ、一度点火すれば持続性が高い特製を持つ。
「自分たち製炭師にとって火は欠かせない存在。1000度は超えていると言われるが、ほぼ毎日向き合っていると『怖い』と思う感覚はないんです」
精錬作業の中で「紫、オレンジ、白、青」へと変化する火を見つめることが、製炭師の大切な仕事。恐れる時間なんてないはず。
森の恵みを熱源に変化させる火と、
時代の変化に向き合う製炭師の仕事に感謝したい。