Origine Elements ~元素~
愛知県高浜市【鬼瓦】
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~鬼瓦~
鬼師が守る『伝燈』の火
古くから良質の粘土に恵まれ、瓦産地として長く栄えてきた愛知県高浜市。
この地域には厄除けのために屋根に飾る、鬼瓦を専門に製造する工房が15ほど残る。
その一軒、昭和10年に創業した鬼十の屋号を、三代目として受け継いだのが服部秋彦さん。受け取った名刺に記されていた文字は『鬼師』。
「この地域では、屋根瓦と鬼瓦を作る工房は別々なんです」機械による大量生産が当たり前となった屋根瓦に対して、国の伝統的工芸品に指定されている鬼瓦には、鬼師の手仕事が欠かせない。
その起点となるのが工房に伝わる型紙。粘土の板に置いた型紙に沿って枠を書いたら、型抜きのように切り抜き表面と呼ばれる面を作り、その裏に粘土板を貼り付けて箱状の台を作る。
次に、表面に様々な模様を付け土して全体の形を造り上げる。使い込まれたヘラ(竹篦、金篦)で一枚一枚削り出すことで、作品に生命を込める。
こうして作った巨大な粘土の固まりを乾燥させたら、釜での焼成へと移る。長いものでは「1ヶ月ほど乾燥させる」という。
「昔はだるま窯と呼ばれるレンガの窯を使っていましたが、今はガス窯を使っています」表・裏の12個の穴から強力な火を窯に送り、約1100度に保つ。
「窯の中に置くときには、まんべんなく焼成するために火の通り道を作ることが大切」と語る。
もちろん、火を入れてからの温度管理にも余念は無い。
一時間ごとの温度変化をグラフとして記録していく。瓦への想いを込めた地道な作業の積み重ねで、厄除けとしての価値は高まっていく。
36時間ほどの焼成を経てガス火を止める際、ボン!ボン!とガス管には小さな爆発が起こる。
この後「窯の中を不完全燃焼のような状態にして」燻化させることで、茶色い粘土はいぶし銀の瓦に生まれ変わる。
こうして出来上がった鬼瓦の数々。重いものでは80キロほどにもなるという。瓦に浮かぶ鬼の表情には、型作りの最後に行う目付けで宿らせた
生命力が活きている。
「鬼師にとって火とは?」と訪ねると、興味深い言葉を聞くことができた。
「私たちにとって火とは『伝燈』。
火で作り出したものを先々へ伝えていくのが使命。
お寺の屋根に積んだ鬼瓦のように長く使われていくことで、変わらない根源的なものとして伝えていく必要があると考えてる。建築資材としての鬼瓦ではなく、文化として残さないとならない」私たちの暮らしを屋根から見守る鬼瓦。
そして鬼師の想いが宿った伝燈の火に感謝したい。
※鬼師や室内に飾る鬼瓦『鬼瓦家盛』を紹介するウェブサイトもご覧ください。