Origine Elements ~元素~
東京都八王子市【火渡り】
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~火渡り~
焚き上げられた願いは、燃え盛る炎を渡り成就する
東京都八王子市、関東山地の東端に位置する高尾山。
都心からアクセスしやすい距離と、標高約600メートルの登りやすさもあって、
国籍や老若男女を問わず、年間通じて観光客や登山客で賑わうスポットとして定着している。
そんな自然と親しむのにうってつけの山だが、元々ここは、修験道の霊山として崇められていた存在。
真言宗智山派の大本山・高尾山薬王院の本拠となっている。
それを再確認させる行事が、毎年3月第二日曜日に執り行われる「火渡り祭」。
燃え盛る護摩壇の前で薬王院の山伏が、息災延命、災厄消除などを祈願した後、
まだ火が残る炭の上を素足で渡る荒行だ。
午後1時、荘厳な法螺貝の音色が響き渡る中、修法を行う大導師を先頭に、火道場と呼ばれる空間に山伏が次々と踏み入れる。
『火切加持(ひきりかじ)』と呼ばれる、道場内及び山伏の不浄を焼きつくす作法を皮切りに、木を切り出す『神斧(しんぷ)』や、道場内の魔と自心の魔を断ちきる『寶剣(ほうけん)』といった作法を行う。こうした一連の流れによって火道場は清められ、『柴燈護摩(さいとうごま)』の準備が整えられる。
放たれた火が檜の葉に燃え移ると、巨大な護摩壇からはモクモクと茶色い煙が立ち上る。
瞬く間にオレンジ色の炎が吹き上がる。
こうして炎の中に不動明王を降臨させるのだ。
そのエネルギーは凄まじく、離れた場所に立っていても木が焼ける匂いが身体を纏い、巻き上げられた火の粉が視界に飛び込んでくる。
圧倒。他に言葉が思い浮かばない。
煌々と燃え上がる護摩の炎を前に、山伏は祈りを捧げる。熱さの感情を捨て炎と向き合う。
時に自分に襲ってくるかもしれない距離で。
そして、願い事が記された『撫で木札』が、山伏の手によって護摩壇に放り込まれる。
『智慧(ちえ)の炎』と呼ばれる護摩の炎によって、人々の煩悩や災難は焼き清められ、炎が小さくなるに連れて護摩壇は熱を持った炭へと変化する。火渡りはここを歩くのだ。
さっきまで煌々と燃え盛っていた炭の上を、
塩で清めた素足で歩く。
仏の境地に達している山伏の一歩に迷いはなく、
炎に向かって真っ直ぐに進む姿は勇ましい。
山伏の祈りと共に焼き清められていく願い。
願いを叶える巨大な炎と清められた願いの塊。
そして山伏の祈りに感謝。