Origine Elements ~元素~
福井県小浜市【お水送り】
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~お水送り~
“道“ を照らす荘厳な松明の火
はるか昔のこと。奈良の東大寺に全国の神々が集う『修二会(しゅにえ)』に参加するはずだった、
福井の若狭彦神社の遠敷明神。
ところが、漁に夢中で遅刻をしてしまい、お詫びとして奈良の東大寺の二月堂の本尊に供える水を送ると約束。その後二月堂の下の岩を叩くと水が湧き出したとのこと。
言い伝えでは東大寺二月堂に繋がるとされる遠敷川(おにゅうがわ)の中流・鵜の瀬の淵から、
「御香水」を注ぐ神事だ。
古くから福井県若狭市で執り行われているのが「お水送り」。
3月2日、若狭神宮寺の境内が夕暮れに包まれる頃。白装束の僧は法螺貝を吹きながら山門をくぐり、神宮寺の本堂に入場し修二会が行われる。
暫くの間、寺の中ではお経が唱えられ、お経の音だけが境内に響き渡る。
お経が途絶えたその時本堂の中から立ち上る火。
そして「エイッ!エイッ!」とのかけ声とともに回廊に大きな火のついた松明が。
赤装束の僧が全身で松明を左右に振りかざす達陀(だったん)の行によって魔が祓われる。
巨大な松明は重さもさることながら、火の中心の眩しさ、そして何より熱によって僧の身体を少しずつ痛めつけているかもしれない。
それでも、契りの水を清めるために魔を祓う。
その後、
達陀の火から移された松明で、
前庭の大護摩に火が焚かれ護摩行が行われる。
天まで届かんとする火。
その勢いが少しずつ収まってきた中、大護摩の火は様々な松明に移される。大人が数人がかりで運ぶ中型の松明は、眩い光と共に火の粉をあたりに舞わせる。
小さな松明一本一本にも大護摩の火が宿っている。その数3000本とも言われる灯りは、どこか幽玄だ。いつもは静かな月灯りに照らされる川沿いの道が、この日は法螺貝の音色と共に、鵜の瀬へと繋がる一本の火の帯となる。
無数の松明の火が暗闇の中、道を照らす。
御香水を鵜の瀬へと運んでいく。
東大寺へと繋がる鵜の瀬を照らす無数の松明。
その火明かりを手がかりに、僧は送水文を読んで邪気祓いをし、御香水を川に注ぐ。
こうして注がれた水は、10日かけて東大寺に流れつき、3月12日に執り行われるお水取りの行事によって締めくくられる。若狭と奈良の繋がりを今に伝えるこの神事。二月堂の井戸が若狭井と呼ばれ、古式ゆかりのまま残るのはその証だ。
動なる火と聖なる水の神事が、結んできた距離と時代。今日まで鵜の瀬に注がれる水を無数の松明の火が道を作り見送ってきた。
暗闇を打ち破る無数の火に照らされながら、契りの証は東大寺への旅路をゆく。
“道“を照らす炎に感謝。