Origine Elements ~元素~
福井県美浜町【へしこ 】
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~へしこ~
伝承の味・へしこを焼く 堅炭の火
福井県三方郡美浜町。
日本海・若狭湾と、深い緑に包まれた三方五湖(みかたごこ)に面したこの町。
日本海の豊かな海流によって集まる種類豊富な魚や森林がもたらす清らかな水によって、暮らしの知恵や文化が培われてきた。
雄大な自然から清らかな水が海に注がれ、ナラやカシ、リョウブといった広葉樹が持つ栄養素が魚を育む。
そんな自然の循環サイクルに間伐作業は欠かせない。
海を守るために木を切り倒すことが、日常的に行われなくなって久しい中、かつて盛んだった炭焼きの取り組みも少しずつ復活している。
「半農半漁のこの町では、昔は暖房材としての需要に応えるため炭焼きが生業になっていたんです」
こう語るのは平成12年から炭焼きに取り組む浜野さん。
特に町の北部・菅浜地区の山に包まれた炭焼き小屋の窯では、伐採されたナラやカシ、リョウブといった木の間伐材が窯の700度の火によって4トンの樹木が500キロまでになるという。
その結果、良質な炭が出来上がる。海を育むために木を育て森を守る上で生まれた自然の恵み。ただ一つも無駄にすることなく使い尽くす。
いわば、自然の対する感謝の念が宿った炭なのだ。
こうして生まれた「菅浜炭」。
「この炭でへしこを焼くと格別」と浜野さんは口元が緩む。
へしこは新鮮な鯖を塩蔵し糠漬けにした発酵食品で、鎌倉時代からこの地区で今日まで作り方が継承されている、食文化の結晶だ。
透明感のあるオレンジ色に染まった堅炭の火
驚くほど強くたくましい火力の役割は、遠赤外線が身にしっかりと熱を通すことと表面の糠を香ばしく炙ること。
炙られた皮目と身の間にブクブクと泡が立ち、湛えていた水分と脂、そして糠が炙られることでへしこの全てが凝縮された煙が立ち上る。
鼻腔に届く香りが圧倒的な食欲を掻き立て、特においしいと評判の「二段漬け」製法で作られたというへしこの味に奥深さを生み出す。
焼かずとも大変おいしく食べられるものではあるが、「へしこは焼いて食べるのが一番」と皆、口を揃える。
それは火を使い食べ物をおいしくする工夫。立ち上る煙の中に、価値を見出しているからなのかもしれない。
匂いを感じることで森林を思い出し、へしこを食べることで文化に触れる喜びにか顔を綻ばせる。
それは町に暮らす自分自身の環境のよさを、自然体で再確認するきっかけに違いない。
「私にとっては火は宝です。」
「ここは半農半漁の生活が中心にある町ですから、木を育み間伐し海を綺麗にするのは未来への責任。」
火を使うことがすべての循環を生む。
「堅炭の火はその源であり証なんです。」
ゆっくりと燃え続ける火と立ち上る煙は、今日も緑豊かな山と未来の暮らしを作る源となる。
美しき浜の恵みと食文化を守り続ける、
堅炭の火に感謝。
どうして、町の人は焼いて食べるのが一番なのだろうと考えてみると、それは火より煙が生まれるからだと感じた。真っ直ぐに立ち上る煙が漂い匂いを感じることで、よだれが出てくる。
この煙は町を愛する自分自身を再確認する時間を生み出すきっかけなのだ。
美しき浜に面した町の美味なる食文化。
そこにはこの火と煙の存在が欠かせない。
人の暮らしを繋いできた火に感謝。
火で作り出したものを先々へ伝えていくのが使命。
そして火によって食文化と町への思いが受け継がれていく。