Origine Elements ~元素~
福島県福島市【大堀相馬焼】
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~大堀相馬焼~
天平の甍色を支える窯の火
江戸時代初期、元禄年間に誕生した大堀相馬焼。
一人の相馬中村藩士が、現在の福島県浪江町大堀で陶土を発見し、最初は日常生活に使う雑器として作られたが、藩が特産物として奨励。ピーク時には窯の数は100を超え、藩主の相馬氏の家紋から意匠となった走り駒の柄は縁起物としても重宝された。
国の伝統的工芸品にも指定される伝統である陶器も、東日本大震災によって存続の危機に直面したが、浪江町にあった窯元はそれぞれの避難先で活動を再開。
福島市飯坂町の一角に構える京月窯もその一つだ。
現在、15代目として窯を守る近藤京子さんは「暮らしに根付いた創作陶芸」をコンセプトに作陶に励んでいる。
古民家を改装したギャラリーには普段遣いしやすい皿や器が並び、ハート型のコーヒーカップのように、遊び心もデザインの中に散りばめられている。伝統的な大堀相馬焼と比べて、多彩な色合いや形状を持つことに驚きすら覚える。
そんな京月窯を代表するのが、青と緑が融合した独特の色合いを持つ作品。
「独学で編み出した」という色は、緑青の吹いた屋根瓦の色に似ていることで「天平の甍色(てんぴょうのいらかいろ)」という名を持つ。避難前に使っていた原料が使えない中、釉薬を自分で調合して色を守っている。
無数の作品が産声を上げる工房の一角では、職人さんがろくろを回しながら作品を練り上げていた。
「本来、大堀相馬焼は機械練りしない」という伝統を守り、今も70代の職人さんと一緒に土を練っている。
かつては登り窯で焼成していたが、現在はガス窯を使っている。
四隅の栓を抜いて、約1300度に達する火の状態を核にする。
焼成の時間は焼き方や釉薬、作品のサイズや形によって変えつつも「21時間以上は焼き上げて、火を止めたら2日かけて自然に温度をさげていく」という。
窯出しの瞬間、青ひびの作品が奏でる「キーン」という澄み切った音色は職人技の証だ。
「火がないと私は何もできない。生活に密着した存在なんです」
震災によって色々な物が失われてしまった中、京子さんが目指しているのは、大堀相馬焼が身近な人の暮らしを豊かにし、アトリエを中心とした新しいコミュニティを紡ぐことなのかもしれない。窯の中でそんな思いを代弁するかのように、煌々と火は燃えていた。
浪江の地で培われてきた伝統を紡ぎ、
想いと共に天平の甍色を支える火に感謝したい。
近徳 京月窯
福島県福島市飯坂町平野字道南4
TEL/FAX 024-542-2818