Origine Elements ~元素~
秋田県仙北市角館【火振り】
《YouTube映像》※画像クリック
~火振り~
火の輪が夜空を巡れば願いが叶う
『雪の上で火が回るかまくら』
この言葉を聞いただけでは、なかなかイメージが思い浮かばないものがあるのをご存知だろうか?
それは乳頭温泉、田沢湖、角館など、多くの観光スポットがある秋田県仙北市に存在する。
この町で毎年2月13日と14日に行われるのが『火振りかまくら』。
旧暦の小正月に田んぼの厄を払うとともに、無病息災・家内安全など、一年の無事を祈願する伝統行事だ。
暗闇の中を白に包まれた空間で、確かに人が中心となって勢い良く火が回っている。まさに火振りという言葉がピッタリ。そんな第一印象を感じた。火の源は『炭俵』と呼ばれるもので、農作業の傘や編み物に使う『スゲ』という多年草を材料に作られる。長さ2mにもなるスゲを刈った後、しっかり乾燥させたら俵型に整える。あとは、1m半程度の振り縄をつければできあがり。
火種となる篝火で炭俵に火を点し、あとは振り縄を思い切りよく振り回すだけ。目の前で燃えさかる炎を御すためには、恐怖心を振り払うかのように全身を使って振るしかない。遠心力で回っているのではない、
自分の気持ちを軸にしてこの火の塊を振るのだ。
俵が燃え尽きる前に縄は焼け、雪上には想いを託した火が残る。
雪の上で火に託した想いが天に昇っていく。
次の火の輪が回り始める瞬間を見届けて火は姿を消した。
残った縄はお守りとして持ち帰ることができる。触れる度に思い出すのは、
眩い輝きと火と向き合った瞬間の自らの心に 違いない。
ところで、どうしてこれをかまくらと呼ぶのか?元々、小正月に行われる伝統行事そのものを『かまくら』と呼び、雪洞の奥に水神様を祀っていた。しかし、いつしか雪洞そのものが『かまくら』と呼ばれるようになったとのこと。つまり、これは「火振りかまくら」というより火振りによる伝統行事。一年の無事を祈願するからこそ、
振り手には火と向き合う覚悟が必要になるのかもしれない。
暗闇の中に火の輪が浮かび上がらせることで、厄や病といった悪しモノ・コトを、神聖な火の力と共に振り払う。
人々の熱気が取り囲む空間には、願いを込めて生まれた無数の火の輪ができていた。
火振りかまくら、
その神聖な邪気を祓う火の力にある種の畏怖を感じつつ、敬いを持って感謝したい。