Origine Elements ~元素~
秋田県美郷町【六郷竹うち】
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~六郷竹うち~
天筆に込めた願いを空へと運ぶ二つの炎
名水百選にも選ばれた六郷湧水群を湛える地・秋田県六郷町。
色あるもの全てを真っ白に染めんとする雪空の中、青竹の先につけられた細長い紙が、寒風になびいていた。
水に恵まれしこの町では、秋になれば稲穂が茶色に染まるが、毎年2月11日からの5日間、『六郷のカマクラ』の時期だけは、5つの鮮やかな色に町は彩られる。
六郷のカマクラは豊作祈願の火祭として、700年余りの歴史を持つ小正月行事。国の重要無形民俗文化財にも指定されている。
短冊を繫げた長い紙は『天筆』と呼ばれるもの。ここに家ごとの願い事を書き記し、青竹に吊るして飾る『天筆書き』から行事は始まり、町内には『鎌倉大明神』を祀った四角い雪室『鳥追い小屋』が作られる。
このお祭りでは松鳰(まつにお)と呼ばれる注連縄や門松などの正月飾りなどと一緒に『天筆』を燃やす。カマクラ畑と呼ばれる場所には、これらが火の入る本番を待つ。
盛り上がりが最高潮を迎えるのは、15日の夜行われる燃盛る火の中での『竹打ち』。
『竹うち』は男衆が青竹を振り下ろして打ち合い、北軍が勝てば米の豊作、南軍が勝てば米の値が上がると言われる合戦だ。
夜8時、『竹うち』の開始時間を迎えたカマクラ畑は、南軍と北軍の二手に分かれた町内の男衆と、長さ6mほどの青竹で埋め尽くされていた。冬の澄み切った空気の中に、吹き鳴らされる木貝と勇ましい竹の音が響き渡り、3回に渡って男衆と竹は激しくぶつかり合う。
2回戦の竹うちが終われば天筆焼きが始まる。カマクラ畑に火が入ると瞬く間に、天を焦がさんとする 2つの大きな炎が生まれた。
「火をちゃんと燃やさないと、願い事が神様に届かないですよー」
天筆に書かれた願い事を神様に届けるためには、圧倒的な炎の力が必要となる。一人一人の想いが姿を変えた灰を浴びれば、一年間病気にならないと言われている。
そう、この炎は守り神となっているのだ。
そんな炎が見守る中で3回戦が始まった。
ぶつかり合いを照らす炎の輝きは、まるで戦に燃える男衆の心の化身のようだ。
今年の結果は南軍の勝利。
ただ、大切なのは勝ち負けではなく、営みを守り受け継ぐこの地域の人々にとっての吉報が生まれること。
町を一つにし、願いを天に届ける火の歴史に感謝。
来年も空に願いが舞う中で、戦いの火蓋は切って落とされる。