Origine Elements ~元素~
青森県弘前市【郷土料理】
《YouTube映像》※画像クリック
~郷土料理しまや~
津軽の”魚鍛冶”が操る炉端の火
春の桜や冬の雪。
四季を代表する色が似合う町、青森県弘前市。その一角、大工町に店を構えるのが『しまや』。
ここは津軽地方で古くから作り食べ継がれてきた郷土料理の専門店。
紺屋町、白金町、親方町と、藩政時代の名残が残る古い町名が残る。
暖簾をくぐると、
カウンターに並ぶ琺瑯バットに盛られた料理の数々から、
『おかえり』
の言葉が聞こえるかのような懐かしさを感じる。
先代から数えて40年以上に渡り暖簾を掲げるこのお店。現在は二代目・嶋谷啓子さんが厨房を受け継ぎ、小気味よい津軽弁と共に、自らが育った地の食文化の魅力を伝えている。
そんなお店で特に欠かせないのが焼き魚。マダラ、ニシン、イカなど、日本海を中心とした
海の幸を炭火でじっくり焼いた一品だ。
美味しさを引き出すもう一つの主役は、店の奥にある炉端。
山状に積まれ赤々と燃える炭の角度に合わせて、一本一本の串で火を囲む。「魚を焼く時には、全体をまんべんなく焼く必要があるから、この形にする必要があるんだよ」しかも、全ての串が火から等距離に置かれるのではなく、種類ごとに絶妙な距離が取られている。
経験に裏打ちされた目測こそ、
この火を操るルールだ。
火力の変化に合わせて串をこまめに動かしつつ、「最初は表、次に裏。あとは横、横の順番」で焼く。 盛り付け時の美しさを考えて、表と裏とで焼く時間も異なるという。表面が香ばしくなっただけでは、焼き魚は完成しない。少しずつ魚から水分が抜け、重さが変わった頃合いを見て火から上げる。啓子さんが大切にしているのは、指に伝わるこの感覚。
これはもう、火と技が織りなす作品だ。
炉端の一角に置かれた炭の鉢。魚を焼き終えた炭は、ここに入れられ温度を下げる。
「消し炭鉢って言うんです。魚を焼く時には新しい炭だけではダメ。使い残した炭を今でいう着火剤のような役割で使うんですよ」
先に魚のおいしさを引き出した火の源が、
新たな火の源と一つになって次のおいしさを作り上げているのだ。
「火を守ることは家の伝統を守ること、そして生活を守ることだと思う」
暖簾を守るおかみとして、そして津軽で生まれ育った 一人の女性として、炭鉢と共に火を守り、生活をも守っている。
津軽の家庭の食文化を受け継ぐ”魚鍛冶”の仕事には、
この炭火が欠かせない。
料理のおいしさと共に。
そんな火に感謝したい。
<取材協力>郷土料理しまや