Origine Elements ~元素~
青森県弘前市[二唐刃物 ]
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~二唐刃物~
津軽打刃物の歴史と切れ味を支える鍛接の火
青森県弘前市。
藩政時代からの鍛冶職人の技が、綿々と受け継がれる津軽の城下町。
青森県の伝統工芸品にも指定されている。その歴史を今なお受け継ぐのが『二唐刃物鍛造所』。津軽藩より作刀を命ぜられて以来、350年の伝統を受け継ぐ日本有数の刀鍛冶の名門だ。津軽打刃物には、農具やりんごの剪定鋏のようにこの地ならではの特長を持つ刃物がある中、包丁もその例に漏れない。
「こちらではマダラのように骨の固い魚をさばく機会が多いので、頑丈目に作っている」
こう語るのは八代目の吉澤剛さん。
作刀技術を応用した包丁づくりは、現社長の七代目・吉澤俊寿さんと、剛さんの二人の鍛冶職人にしか許されていない。
高い天井を三角錐の形をした煙突が貫く工場の一角、
鍛冶場にそびえ立つ巨大な炉の中で燃える炎の温度は1200度にも達する。その傍らで剛さんが鉄と火に向き合う真剣勝負の時間が始まる。
包丁づくりの過程の中で、最初のポイントとなるのが『鍛接』と呼ばれる作業。鋼と地鉄と呼ばれる金属を重ね合わる。
粉薬を振って炉の中で高温に焼くことで二つの金属を一体化させるのだ。目指す温度に達した金属は、
太陽を彷彿させるような、熱が充満したオレンジ色に染まる。
炉から出したところで最初の一打ち。
『カン!カン!』金槌とぶつかり合う音が工場の中に響いた瞬間、
一本の塊から無数の焼け落ちた火花が飛び散るこれが包丁の源となる。
機械を使って包丁の刃先の角度を作り出したら、再び炉に入れる。幾度となく叩くことで、生き物のように形を変える作業を繰り返す。
炉の中で輝く灼熱の炎と対峙し、
使い慣れた道具を振り下ろすことで、350年に渡り守ってきた切れ味を伝える、新しい一本が生まれる。
「本当は体力が続けば一晩中でも作っていたいのですが、今は月に30-50本が限界。それを超えるといい物が作れない」まさにこれは一本入魂の作品だ。
剛さんは、炉の中で燃え盛る炎を「相棒」と呼ぶ。「いなかったら仕事できないですし、あればなんとかなる。時には喧嘩もしますけどね」作務衣から覗く腕に無数の生傷が残る腕は、相棒とともに今日も伝統を受け継いでいる。
思えば、人間の生活はいつも火を相棒としてきた。
炉の中で燃え盛る炎は、そんなことを思い出させてくれた。
北の地で受け継がれてきた職人の技は、今日も灼熱の相棒とともに形となる。
そんな火に感謝したい。
※二唐刃物鍛造所では見学を受け付けています(要事前申し込み)