Origine Elements ~元素~
静岡県西伊豆町【手火山】
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駿河湾に面した静岡県西伊豆町。
漁業が盛んなこの町には、古くからの営みが形成した鰹にまつわる文化が静かに息づく。
1300年の歴史を持つ塩鰹をつくりを、さらに改良して出来上がった350年の歴史を持つ鰹節づくりだ。
全国に数々の鰹節づくり製法がある中で、この地に伝承されているのが「手火山式焙乾」製法。
現在では貴重となったこの技術を守るのが、田子地区に店を構えるカネサ鰹節商店。
かつて、この地区には60の鰹節工場があったといい、その工場に属する同じ数だけの鰹船が海を賑わせていたという。現在はわずか3つしか残っていない。そんな町の宝物を、五代目の芹沢安久さんを中心とした職人たちが受け継いでいる。
鰹の身をかごに並べて窯で煮冷ましたら、ウロコや骨を取り除く。小骨一つ丁寧に取り外す精緻な仕事もまた、鰹節づくりに欠かせない。
ここからが、手火山式焙乾ならではの仕事。木製の蒸籠に鰹を並べ、火山炉(ひやまろ)と呼ばれる炉で燻す。
特に最初の燻しは「一番火」と呼ばれ、表面を強火で固め、旨みを閉じ込めつつ身から余分な水気を取り除く大切な作業。
炉の中を覗くと2mほどの穴の底で薪が煌々と燃えている。
「鰹節に木の香りをつけない」ために使われているクヌギやナラは、地元の山から切り出されたものだ。昔から必ず地元の木々を使うという。森を守り海を守り魚を守る。
何段にも重ねた蒸籠のすぐ傍まで火は迫り、表面を少しずつ褐色に染めていく。
130度ほどの薪火で燻された鰹からは水分が抜け、表面は艷やかに乾き出す。鰹に当たる火の偏りや向きを調整するために、職人は炉につきっきり。火が生み出す熱と燻す煙とで、身を削りながらの仕事が続く。
そして、仕上げ具合を確かめるのは自らの手。表面を触ることで硬さの度合いを確かめる。
「手火山とは手で触ること、火で燻すこと、そして火の加減を見る為に山を描くように手を動かす所作なんです」
鰹の身を休めつつ焙乾は3日置きに行われ、約ひと月10回以上繰り返される。「重さが6分の1ほどになる」という焙乾後の鰹節を叩けば、カンカンと反射音が聞こえる。これにカビつけと天日干しを7回以上繰り返して、田子の本枯節のできあがり。
半年近くかけることでイノシン酸がたっぷりと蓄えられ旨味の源となる。
そう、味に深みが生むのは“火と手“の仕事に他ならないのだ。
「私たちにとって火は、美味しさを作り出す源。味を閉じ込めるためにはこの強火が欠かせないんです」
培われてきた技術を愛する思いと、
実直な仕事が生み出す旨味を今日まで食卓に伝えてきた
この火に感謝したい。